「毎月2万円の持ち出しが続いている。このまま持っていていいのか」
家賃の入金より、返済や管理費などの支払いが多い。この状態が続くと、売るべきか迷います。
ただし「赤字」には性質の違う2つの意味があります。まず分けてから、数字を比べてみましょう。
売るか、持ち続けるか。決める前に確認するのは7項目です。
「赤字」には2種類ある
まず、口座から出ていくお金と、確定申告で計算する赤字を分けます。
| 意味 | どこで分かるか | |
|---|---|---|
| 現金の赤字 | 家賃などの入金から、返済・管理費・税金などの実際の支出を引いて、マイナスになった分 | 通帳・送金明細・返済予定表 |
| 帳簿上の赤字 | 確定申告で計算した不動産所得のマイナス | 確定申告書・収支内訳書 |
この2つは一致しません。
帳簿上は、減価償却費という費用が引かれています。建物の価値の目減りを費用として計上するもので、その年に現金が出ていくわけではありません。
そのため「申告では赤字だが、現金はほぼ回っている」ということが起こります。逆に、ローンの元金返済は現金が出ていきますが、費用ではありません。借りたお金を返しているだけだからです。
なお、不動産所得の赤字は、原則として給与所得などと損益通算できます。
ただし、土地等を取得するための借入金の利子に相当する部分は対象外です(租税特別措置法41条の4)。
取扱いは個別の事情で変わりますので、税務署または税理士にご確認ください。
参考: 国税庁 No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
判断に使うのは、まず現金の赤字のほうです。
確認する7項目
紙でもスマートフォンのメモでもかまいません。次の7項目を、1か所に書き出してください。
これは最初の切り分けに必要な項目です。これだけで結論が出るものではありませんが、未確認の項目は空欄のままでも、売るか持つかの整理を始められます。
| # | 確認する項目 | どこで分かるか |
|---|---|---|
| 1 | 入居者が払っている賃料(月額・費用が引かれる前の金額) | 賃貸借契約書・管理会社の送金明細 |
| 2 | ローン返済額(月額)と、そのうちの利息 | 金融機関の返済予定表 |
| 3 | 管理費・修繕積立金(月額) | 管理組合からの通知 |
| 4 | 管理委託料またはサブリースの差額(月額) | 管理委託契約書・サブリース契約書 |
| 5 | 固定資産税・都市計画税と、その他の年間経費 | 納税通知書・保険証券・過去の請求書 |
| 6 | ローン残債 | 返済予定表の、直近の残高 |
| 7 | 売却価格の目安と、諸費用を引いた手取り | 不動産会社の査定 |
1から5で年間の現金収支を、6と7で「いま売ったらどうなるのか」を確認します。
1番と4番は、二重に引かないようご注意ください。
口座に入ってくる金額は、多くの場合すでに管理委託料が引かれたあとの金額です。引かれる前の賃料が分かるなら、1番に引かれる前の金額を書き、4番で引きます。
分からないなら、1番に入金額を書き、4番は0にします。どちらかに統一してください。
4番で確認したいのは、賃料と手取りの差です。サブリース(家賃保証)の場合、入居者が払っている賃料と、ご自身に入る保証賃料の差がそのままコストになっています。保証料率は契約書に記載されています。
3番の修繕積立金は、今の金額だけでなく今後の予定も確認します。段階的に引き上げる設計になっていることが多く、管理組合の長期修繕計画に改定の予定が書かれています。
5番の「その他の年間経費」には、次のものが入ります。毎月は出ていかないため、月次の収支から抜け落ちやすい費用です。
- 火災保険・地震保険の保険料
- 設備の故障による修繕費(給湯器・エアコンなど)
- 退去時の原状回復費用と、次の入居者を募集する費用(広告料)
空室期間は、1番の家賃収入をその期間だけ0円として計算します。
2番の返済額と3番の管理費・修繕積立金を年間で計上しているなら、空室期間分を5番でもう一度引かないでください。
7項目を並べると何が見えるか
数字が入ると、判断の材料になります。以下は説明のための架空の例です。
実際の金額は物件ごとに異なります。
前提(この例のために置いた数字です)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 賃料(管理委託料が引かれる前) | 85,000円/月 |
| ローン返済 | 78,000円/月(うち利息が年 330,000円) |
| 管理費・修繕積立金 | 12,000円/月 |
| 管理委託料(家賃の5%) | 4,250円/月 |
| 固定資産税・都市計画税 | 60,000円/年 |
| ローン残債 | 18,000,000円 |
| 査定価格 | 20,000,000円 |
この例では、1番に引かれる前の賃料を置き、4番の管理委託料を別に引く方式を採っています。
口座への入金額が4,250円を引いたあとの80,750円だった場合は、80,750円を家賃として置き、管理委託料は引きません。結果は同じです。
なお、この例には火災保険料・退去時の原状回復費用・募集費用や、空室による家賃収入の減少を入れていません。
実際の試算では、支出と家賃収入への影響をそれぞれ反映します。
1年間の現金収支
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 家賃収入 | 1,020,000円 |
| ローン返済 | −936,000円 |
| 管理費・修繕積立金 | −144,000円 |
| 管理委託料 | −51,000円 |
| 固定資産税等 | −60,000円 |
| 年間の現金収支 | −171,000円 |
月あたり約14,250円の持ち出しです。
ここで止めると「毎月1万4千円の赤字」で終わります。もう一歩進めます。
返済額のうち、元金はいくらか
年間返済額936,000円 − 利息330,000円 = 元金606,000円です。
元金の606,000円は、現金として出ていきましたが、その分だけローン残債が減っています。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 元金の減少 | +606,000円 |
| 現金の持ち出し | −171,000円 |
| 差引 | +435,000円 |
つまりこの例では、年17万1千円の持ち出しと引き換えに、借金が60万6千円減っています。
ただし、これは物件価格が下がらなかった場合の話です。
価格が年に43万5千円を超えて下がるなら、この差引は消えます。
将来いくら下がるかは、今の査定額では分かりません。
現在の査定で分かるのは、いまの価格だけです。
先の見通しを立てるには、賃料が下がった場合・修繕積立金が上がった場合・空室が出た場合など、複数の前提を置いて並べてみる必要があります。1つの数字で決まるものではありません。
いま売ったらどうなるか
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 査定価格 | 20,000,000円 |
| 仲介手数料(上限・税込) | −726,000円 |
| 印紙税 | −10,000円 |
| 抵当権抹消(登録免許税+司法書士) | −17,000円 |
| 繰上返済手数料 | −33,000円 |
| ローン返済前の残額 | 19,214,000円 |
| ローン残債 | −18,000,000円 |
| 決済時の手残り | +1,214,000円 |
この表の仲介手数料は、一般的な上限額で計算したものです。うさぎアセットでは売主様から仲介手数料をいただいていません。
印紙税の1万円は、紙の契約書で、軽減措置が適用される場合の金額です
(2027年3月31日までに作成される契約書が対象)。電子契約では原則としてかかりません。
抵当権抹消の登録免許税は不動産1個につき1,000円で、敷地の土地が複数筆に分かれていれば増えます。
繰上返済手数料は金融機関によって0円のこともあります。
この例では、決済のときに持ち出しなく売却できる可能性がある状態です。
差引がマイナスなら、売るために手出しが必要になります。
なお、翌年に譲渡所得税がかかる場合があります。上の表には含まれていません。
「売る」を選ぶ前に確認すること
- 差引がプラスでも、翌年の譲渡所得税を引いたあとで判断してください
- 査定価格は会社によって開きが出ます。高い金額だけで決めず、根拠を確認してください
- サブリース契約がある場合、解除できるか、付いたまま売るかで進め方が変わります
- 入居者がいる状態での売却(オーナーチェンジ)が原則で、室内の内見は通常ありません
「持ち続ける」を選ぶ場合に確認すること
持ち続けるという判断も、同じくらい正当な選択です。ただし次を確認してください。
- 修繕積立金の今後の改定予定(長期修繕計画)
- 賃料の更新時の見直しと、退去時の原状回復・募集費用
- ローンの残り期間と、完済時のご自身の年齢
- 複数の売却価格を想定したとき、残債との関係がどう変わるか
残債の減り方と複数の価格シナリオを比べれば、待つ場合の目安が見えてきます。
ただし、将来の売却価格を確定できるわけではありません。
期限を決めずに持ち続けると、判断の機会を逃しやすくなります。
急いで決めなくてよいこと
赤字が続いていると、早く手を打たなければという気持ちになります。
ただ、次の3つは急いで進めないでください。
- その場での署名。媒介契約もサブリースの解約合意も、署名の前に契約期間・解除の条件・違約金や費用の負担を確認してください。あとから解除できる場合もありますが、条件は契約の内容によって変わります
- 一括で全部売る判断。複数お持ちの場合、物件ごとに事情が違います
- 連絡してきた相手を確認しないまま話を進めること。管理会社と売却の提案元が同じとは限りません
7項目を並べるだけなら、手元にある資料から始められます。
売ると決めていなくても、先に並べておくことができます。
まとめ
毎月の赤字だけを見て、売却を決める必要はありません。賃料や支出から年間の現金収支を、残債と売却価格から決済時の手残りを確認します。両方を並べてから、売るか持つかを検討できます。
出口が詰まる仕組みそのものについては、こちらで説明しています。
本記事は一般的な説明であり、個別の税務・法律相談ではありません。
税額の計算は税務署または税理士へ、契約の解釈は弁護士へご確認ください。
うさぎアセットでは、この7項目に沿った数字の整理を無料で承っています。
売却を前提としたご相談ではありません。
保有し続けた場合と売却した場合の両方を試算し、「いまは売らないほうがよい」と判断すれば、そのままお伝えします。
売却に進む場合も、うさぎアセットは売主様から仲介手数料をいただいていません。
初回のご相談では、物件名やお部屋番号をお知らせいただく必要はありません。
分からない項目は空欄のままで結構です。


